第5回 月惑星探査データを子孫たちに語り継ぐ(山本幸生)

月惑星探査のデータを後世に残すために、日々努力しています。データをまとめて整理整頓することをデータ・アーカイブと言います。ノンフィクションの小説もデータも事実に基づいた記録ですが、比較的データは無機質に思われがちです。しかし生まれる前の出来事に直接触れることができるデータは、その設計思想や当時の探査機運用にまで思いを馳せることができ、感慨深いものがあります。そんなデータのことばかり考えてる人の目から見た縦孔探査計画について語りたいと思います。

春山さんとの出会いはいつだったかもう覚えていませんが、SELENEが打ち上がる何年も前に、春山さんが「月の溶岩チューブ」について、セミナーで熱く語っていたことを覚えています。その後SELENEがうち上がり、春山さんが担当した観測機器(LISM)で取得した画像から、3つの大きな縦孔が見つかったのはご存知の通りです。何も知らない人は偶然見つかった縦孔とお思いかも知れませんが、実際には、強い信念によって見つけられた縦孔だったと私は考えています。画像を見てみると「え?この画像から縦孔が空いていると分かったの?」というほど、困難なことが分かります。

今その信念は、発見だけに留まらず、実際に行って探査を行いたいという情熱となり、多くの賛同者を得ています。月面の縦孔は2009年に初めて論文発表された新しい事実であり、プロジェクト化までの道のりは決して簡単なものではないでしょう。しかしそれを乗り越えるのは、確固たる信念とサポートする仲間、そしてそれを実現するための機会が必要です。遠い道のりであるとは思いますが、まだ見ぬ子孫たちに語り継がれる「縦孔探査の黎明期」を生きていると実感しています。

山本幸生