第5回 プロローグ5

月の上は、これまで無数の隕石の落下にさらされてきました。その結果、表面は細かく砕 かれ数10ミクロンサイズの、細かな火山灰にも似た砂が積もっている状態になっています。この砂を「レゴリス」と言います。このレゴリスをかき集め、月面 基地の上にかぶせれば、絶え間ない隕石の落下、極高温と極低温の繰り返し、あふれる放射線のリスクを低減できる、、という案が昔から出されています。月基 地を描いた絵の中には、砂をかぶった基地が描かれたものなどがよく見られます。しかし、基地などの上にかぶせる砂の量が数mにも満たない量だと、放射線 は、むしろ逆に、かけた砂の中で反応を起こして増え、砂の下の基地の中は、より被爆しやすい可能性があるのです(例えば、Denisov et al. (2010) や、 Hayatsu et al.(2009):引用文献詳細は、「参考文献」をご覧下さい)。実際に宇宙の放射線を遮るには数mもの厚さの砂が必要です。大量の砂を集め、基地など の上にかぶせるという作業は、少し考えただけでも大変な作業であると考えられるでしょう。

しかしながら、溶岩チューブがあればどうでしょ う?天井があります。その天井が厚ければ、隕石落下、放射線・プラズマからの被爆といった問題を一気に解決してくれます。 更に、地下にあるチューブの中は、月面の-150℃以下から+100℃以上にも及ぶ激しい温度差とは無縁で、ほぼ一定ということにもなります。月赤道域で は、約-20℃程度と見積もられます(Haruyama et al., 2012 参照)。人にとっては少々寒いかもしれませんが、まったく生きていけないところではありません。また、機器を作っていく上でも、一定の温度とい うのはとてもありがたいことです。

溶岩チューブが基地として適しているのは、このことだけにとどまりません。

 

参考文献:

Denisov AN, Kuznetsov NV, Nymmik RA, Panasyuk MI, Sobolevskii NM (2010) On the problem of lunar radiation environment. Cosmic Research 48(6): 509-516

Haruyama J., Morota T., Kobayashi S., Sawai S., Lucey P.G., Shirao M., and Nishino M.N., Lunar Holes and Lava Tubes as Resources for Lunar Science and Exploration, in: Badescu, V. (Eds.), Moon – Prospective Energy and Material Resources, Springer, pp. 139-164, 2012 http://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-3-642-27969-0_6#page-1

Hayatsu K, Hareyama M, Kobayashi S, Yamashita N, Sakurai K, Hasebe N. (2009) HZE Particle and Neutron Dosages from Cosmic Rays on the Lunar Surface. Proc. In: Int Workshop Advances in Cosmic Ray Science, J Phys Soc Jpn 78 Suppl A, pp 149-152