第17回 月面基地を思う(妻木俊道) 

 月縦孔のことを知ったとき、久々に「月面基地」のことを思った。子供の頃、粗い白黒のテレビ画面に映し出された月面を飛び跳ねる飛行士の映像を観たときも、やはり月面基地を思っていた。ノートの頁に密かに「夢の月面基地」の内部構造を描いていたような少年は自分だけではないと思う。それくらい月面基地は、夢想家の少年だった自分にとってポピュラーなサイエンスだった。

 しかし子供の頃はすぐにも実現しそうであった巨大基地も、大人になって調べてみると、とても難しいことが解る。コストがかかる機材の輸送はさて置き、高真空、激しい温度変化、放射線の問題、そして地球上よりずっと多い隕石落下も怖い。その現実に直面すると怖気づいてしまう。

 映画「アイアン・スカイ」では、UFO基地、工場から学校まで入った鈎十字型の外形をした巨大月面基地が出てくるが(笑)、どうやって内部を保護しているのだろう?と理屈っぽい自分は映画を観ながら考えてしまった。巨大基地なら、その外壁に分厚い断熱材でも重ねればいいのだろうけれど、結構大変である。特に初期の小規模基地では難しそうだ。

 そこで縦孔である。火山性の地下ホールなら、開口部の奥は推定されるように広い空間や横孔が拡がっているのであろう。そして研究者の方々も既に構想されているように、開口部に蓋をして広い内部には多階層の、環境的に安定化、保護された基地構造物が拡がる。温度はほぼ一定で、放射線はうまく遮られている。多重化された蓋などの気密は万全で、内部構造物周辺にも還元装置から生産された空気が満ちている。水も貯蔵・循環されているから少しは緑が育成されているかもしれない・・・。そしてそこには週1便の地球との定期便が就航していて、それに乗って縦孔基地に向かう自分がいる。そんなことを考えるとウズウズしてくる。

 そんな夢いっぱいの地下基地(ムーンベース)を護って塞いでいる蓋(エアロック)の前に宇宙船が近づくと、まさに「スターウォーズ」の1シーンのように音もなく(SF映像だと何故かある。「ゴーン」と)荘厳に開く。そう、その日本の宇宙船の船体には、UZUME計画の-天岩戸を開き天照大神を導き出したとされる女神-「うずめ」の文字が記されているに違いない。(Dream comes true!)

 (妻木 俊道)