第19回 月の溶岩チューブへの想い(杉本悠樹) 

 月の縦孔の存在により月に溶岩チューブの存在がする可能性が高くなっています。私の勤務する山梨県富士河口湖町には富士山の噴火によって流れ出した溶岩流によって形成された溶岩洞穴が多数あり、6件が国の天然記念物に指定されております。その多くの溶岩洞穴は平安時代の貞観6年(864)に富士山の側火山の噴火により誕生しました。その溶岩流が流れた範囲は現在「青木ヶ原樹海」として広く知られております。約1150年が経過した現在も富士山の火山活動の履歴を物語る貴重な天然記念物として保護されています。

 私がUZUMEのプロジェクトに関わるきっかけとなったのは、溶岩洞穴を多く有する富士河口湖町とのアウトリーチによる連携を行うことでした。富士山の世界文化遺産登録に向けて、富士山に関連する文化財(天然記念物を含む)の調査が蓄積され、富士山麓の溶岩洞穴も保護のために高度な測量が実施された直後でした。3Dレーザー・スキャナーによる測量が実施され、溶岩洞穴の詳細な形状が記録されました。その調査成果を紹介することを含め、富士山麓の溶岩洞穴(溶岩チューブ)の事例と月面で探査が期待される溶岩チューブへと夢がつながって行きました。

 富士河口湖町に所在する本栖風穴、富岳風穴、富士風穴、隣接する鳴沢村に所在する鳴沢氷穴では、外気温が30℃前後になる真夏でも洞穴内部は0℃の環境にあり、氷に覆われた幻想的な空間が広がり、地下に「異空間」が存在すると言えます。地上の環境とは異なった、太陽の光の届かない暗く寒い空間が長く伸びています。月の溶岩チューブの内部もきっと月面とは全く環境が異なる「異空間」であることが想像されます。

 世界遺産に登録された富士山にある溶岩洞穴は、人類共有の宝であり地球の代表的な溶岩洞穴であると思います。富士山麓の溶岩洞穴とこれから探査される月の溶岩チューブの比較がなされ、異なる星で生まれた溶岩洞穴と溶岩チューブがUZUMEによって結ばれることを期待しています。

 (杉本悠樹)