第20回 縦孔式拠点構築へ向けた新たな移動方式 (大槻真嗣)

 落ち葉の舞う季節となりました.宇宙科学研究所の大槻真嗣と申します.UZUMEでは投てき装置を利用した縦孔内探査を提案しております.

 何千年もの昔から人類は車輪を利用し,重量物を効率的に遠方へ移動させるすべを獲得してきました.惑星探査ロボットでも車輪型が全盛の時代となっており,私も普段は車輪と惑星表面地盤の相互作用に関する研究をしています.縦孔のような極限地形において,車輪型ロボットが活躍できることはあるだろうか?という疑問が始まりでした.とてもじゃないですが,孔底にずり落ちてしまうことは目に見えています.

 一方,人間が大きくて深い孔を探索する際にはロープを巧みに使い移動を行っています.古来よりロープは様々な用途に使用されており,13世紀ごろに金属のワイヤロープが使われ始めたようですが,本格的に使用されるようになったのは産業革命以降のようです.近年では,ベクトラン,ザイロン等,スーパー繊維の登場で,金属のワイヤに近いもしくはそれ以上の性能を持つ軽いロープが開発されています.そんなロープを使えば,ロボットも活躍できるはずです.

 また,月面では昼と夜の熱環境の厳しさから活動に制約が課せられ,時間との勝負になります.しかし,孔傍に降りても,孔淵までは距離があるから,車輪での移動には時間がかかるだろう(探査ロボットは尋常でなく移動速度が遅い)という考えがまず第一に思い浮かびました.そこで,飛行機!というわけにはいきません.火星ならまだしも月には大気がありません.したがって,私の中では「投げる」という結論に至りました.そして,物を投げる(投てき)装置を研究している産総研のA博士と共同して,月面での投てき装置の開発を始めました.

 後は,ロボットに命綱を結って孔に放り込み,吊り下がった状態か壁に沿う形で孔底へゆっくりおろせば良いだけなのですが,ただ,投げ入れるものがDante-IIのような多脚型のロボットでは,見事に転倒してしまうことでしょう.したがって,慶應義塾大学のI先生が提案する球型ロボットやJPLが提案しているAxelのような二輪型ロボットのように,反転しても大丈夫なロボットが妥当であると現状では考えています.

 ロボットは科学観測のための道具です.しかし,そんなロボットがロープを使って月面の孔をするするすると降りるのを想像すると,なんだか夢があります.

(大槻真嗣)