第22回 ロボットと月の孔へ向かう夢と期待  (稲葉雅幸)

 東大で知能ロボットとそれを発展させる環境に関する研究を行ってきています.ここ10年は等身大のヒューマノイドロボットが多くなりましたが,研究を始めた1982年ころの知能ロボットは頭部と腕だけのロボットでした.紐のように変形する物を扱って輪に通して結ぶなどの行動には目が必要で目でどこをどのように見てどのように手を動かせばそれができるかということがテーマとなっていました.

 1993年ころから,人や動物のように全身で動き回ることができるロボットをテーマとできるように,無線を使って動かす車輪移動,4脚移動,4脚2腕,2脚2腕などの多種類のロボットを作り,同じ基地局から同時に動かせる環境として,脳を持ち歩かないリモートブレインロボット環境と呼んでいました.ロボットには計算機を載せる必要が無いため,頭脳用計算機は大型で性能の高いものを使うことができ,ロボットの身体には最低限のものを載せて軽くすることが可能となりました.ロボットからは基地局へカメラ情報と他のセンサ情報を画像にまとめて無線で送り,局所画像相関演算処理などを利用して動き検出,フロー検出,距離計測などを基地局で行うことでロボットの行動生成を自動でも手動でもできる環境となりました.このような構成は宇宙では普通の形態かもしれません.

 2脚2腕ロボットは,腕を使って起き上がったり階段を登ったりでき,移動だけでなく腕が使えることで物を抱えて歩くこともでき,一台のロボットで移動と物体操作ができるところが特長です.小型だと人の手のように器用なものを作ることが難しく,大きなものを作るようになり,2000年頃からは等身大のヒューマノイドとなって,人の生活環境や道具をロボットがそのまま扱えるような研究が可能となりました.道具は身体を拡張したものとなり,道具を含めた身体像をもてるようになるロボットの研究となります.人のように多数の骨からなる身体を多数のアクチュエータで駆動する筋骨格型ヒューマノイドも1995年頃から作り始めています.自分の身体がどうなっているかを獲得し冗長性を利用するロボットの頭脳の研究となっています.宇宙で失敗に見えたものを残っていた能力を工夫して活用することで再起させたニュースを聞くと,必要最低限だけではないシステムデザインがなされていたのかなと感じさせてくれます.

 宇宙は日ごろ意識しないでいましたが,月に孔があり,それを世界で最初に発見したのが春山さんで,日本が最初だと聞きました.その縦孔へ降りていって,科学者の目,手,脚となり,孔の中から見上げ,横に孔が続くのか壁がどうなっているのか観察し,岩陰や砂の中にあるものを手にとって持ち帰ってくるというようなことができると大変夢は膨らみます.地球上であっても縦孔を降りていって同じような探査を行うことができるロボットは簡単ではなさそうですが,屋外の自然環境,人が入ってゆくには危ない環境へのロボット応用へつながり地上での波及効果も高い夢と感じています.研究室若手代表の岡田先生がその夢を地上でどのように環境づくりをしてゆくかに取り組もうと頑張っています.

(稲葉雅幸)