月の縦孔

日本の月探査機 SELENE「かぐや」の月面観測データにより、月面に、地球の火山地形に見られるような、直径・深さともに数10m~100mにおよぶ巨大な縦孔を発見されました。

月面全体のデータを詳しく調べた結果、下の図に示すように、マリウスヒル静の海賢者の海の3つの縦孔があることがわかりました。

Hole_Position_B

縦孔の底には広い地下空洞があり、横孔が続いている可能性も示唆されています。

縦孔・地下空洞は、地下にあり、天井があるために、人類が月面に基地を作り、長期滞在する際に一番問題になる宇宙の放射線や隕石から守られており、また温度が非常に安定しています。

静かの海の孔の底からは、地球が常に見えています。これらの特性から、私たちは、縦孔が月面基地として最適な場所であると考えています。

3 thoughts on “月の縦孔

  1. 始めまして。宇宙博でUZUME計画に関するお話を伺い、非常に興味を持ったので、今年の文化祭の展示にこちらの計画を扱いたいと思っております。

    そこでいくつか質問をさせていただきたいと思います。

    まず縦穴の先に広がる地下空洞についてですが、これは実際に観測されたわけではなく、観測された縦穴の深さと、月の地下には溶岩チューブが広がっているだろうという想定のもとから、地下空洞が広がっていると予想している、という認識でよろしいでしょうか?

    よろしくお願いします。

    • Usui Mitsukiさん

      興味を持っていただき、ありがとうございます。お返事が遅くなりました。

      地下空洞については実際に観測されているわけではありません。地下空洞があるだろうと考えている理由としては

      1)縦孔が発見されたエリアは溶岩地形であることから、地球の例で考えると地下空洞があってもおかしくない
      2)縦孔の深さから考えると、クレーターの一種では無く、地下空洞の天井が崩落したものだと考える方が説明しやすい

      というところでしょうか。

      またNASAの月探査機LROの観測からも、少しくらいは奥に広がっていることがわかっています。ただし宇宙博のジオラマのような広大な空洞があるかどうかは、実際に探査機を送って中に入る、もしくは上空からレーダーサウンダー(ただし、かぐや/SELENEのものよりももっと高解像度のもの)で観測をするまではわかりません。

    • Usui様

      春山です。

      UZUME計画に興味を持っていただき、うれしいです。

      「(地下空洞)は、実際に観測されたわけではなく、観測された縦穴の深さと、月の地下には溶岩チューブが広がっているだろうという想定のもとから、地下空洞が広がっていると予想している」、という認識でよろしいでしょうか?」

      とのことですが、「地下空洞が存在しているのは、間違いない」との認識、を私はもっています。

      その根拠は、LROが撮像した画像からです。本ホームページの「月の縦孔」のページに、LROの画像を載せています。ご覧下さい。それぞれに底が写っています。

      もし横穴・地下空洞が広がっていないとしたら、どうなるか?考えてみて下さい。たとえば、試験管のような「単なる深い孔」だったら、どうでしょう?きっと、その底は、いまみえているようなものではなく、クレータの底と同じようなものになるはずです。しかし、その底の様子を見ると、他の隕石孔(クレータ)の底とは明らかに違います。

      次に、底に散在する岩に注目してみましょう。これらの中には、ちょうど縦孔の下あたりで、「切れた」ように写っているのがありますね。もしやはり縦孔の底に、水平方向に広がりのある空間がなければ、岩はこのように写らず、縦孔の壁の直下からすこし内側に転げた形で見えるはずでしょう。

      そして、決定的なのは、LROによる斜め撮像の結果です。これも、「月の縦孔」のページに掲載してあります。孔を西や東からのぞき込む形での撮影をLROは行っており、その結果、SELENEの発見した縦孔は奥行きを持つことがわかっています。静の海の縦孔では、20m、マリウスヒルの縦孔では12mの奥行きだと、LROのカメラのPI(Principal Investigator: 主責任研究者)は、報告しています。(賢者の海については明確では無い)(M. Robinson et al., "Confirmation ofsublunareanvoidsandthinlayeringinmaredeposits", Planetary andSpaceScience69(2012)18–27)。つまり、縦孔の底は地下空洞につながっていると判断できるのです。

       ところで、「奥行きが有っても、そこは日が当たっているから、放射線も降っているのでは無いか?つまり、地下空洞としての安全性では問題では?」という指摘がちょうど,JAXA 研究開発本部の香河さんから有りました。たしかに、そうです。さすが香河さん、非常に鋭いです。

      しかし、LROのカメラ画像からは、表面から地下空洞の天井厚も知ることが出来ます。画像データの解析結果から、地下空洞の天井もかなり高いことが分かっています。(先の論文を読んでみて下さい。) つまり、見えている地下空洞の床面の上に空間があると考えられるわけです(ここは、類推ですが、非常に妥当な類推と言えるでしょう。ちょうど、視線と同方向に天井が傾斜を持つとは考えにくいですから。このあたり、言葉だと説明が難しいです。いつか図を掲載します)。床からちょっと上に滞在場所を構築すれば、放射線を浴びることはないでしょう。そもそも、縦孔の開口部分は、底や、更に地下空洞からだと非常に小さいわけですから、大きな放射線嵐が襲ってきても、放射線がちょうど、奥にまで入り込む可能性は、非常に小さいです。

      我々としては、三つの縦孔の発見後、Robinson博士に、縦孔の位置情報を教え、データをとってもらいました。ところが、、です。彼らは、データを取っても、なかなか我々に見せてくれませんでした。人伝えに聞くと、彼らのチームメンバーに論文を書かせているから、とのことでした。こちらとしても、LROのカメラデータがあれば、書こうとしていた題材は、たくさんありました。まさに、底の様子の高解像度データからは、様々なことが分かるわけです。しかし、彼らがデータを見せたのは、データを取って半年以上もたっての学会ででした。データを持たない、一番で無い、ということは、こういうことなのです。LROチームとしても、多くの研究者を抱えています。機器開発や運用、データ処理に貢献した彼らに論文成果という対価を与えないといけません。科学の世界、探査の世界は、ほいほいとデータをもらえる、そんな甘い世界ではないのです。特に先取権を争っている場合は、非常にシビアで、普段のつきあいの良さは何だったのか、と思うときもあるほどです。LROのチームと、はじめから取り決めをして、データ取得に関わるそれなりの義務を果たしていれば、もしかしたら、データをもらえたかもしれません。しかし、日本は、アメリカに比べれば、月惑星探査は遅れています。アメリカ側にメリットがなければ、仲間に入れてもらえることさえできません。(我々だってそうです)。そういうものです。「仲良くやればいい、一緒にやればいい」、、というのは、実力を伴って初めて言えて、できることなのです。(あとはお金という手もあるかもしれませんが。)。

      さて、後日談ですが、かれらは、詳細な画像情報で、(我々が書きたかった!)縦孔の詳細形状に関わる論文を書いていました。しかし、なかなか、それは、発表されませんでした。その間に、私も公開データを使って論文を作成し、他の研究者による審査(レビュー)を受けて、発表しました。それが、参考文献にも載せている「Moon」という本に収録されたものです。2012年の初夏のころのことでした。2009年の論文では、マリウスヒルの縦孔の発見のみの報告で、この2012年の論文で、他の静の海の縦孔と賢者の海の縦孔の発見を正式に報告することができました。2010年にはすでに、LPSCという学会のアブストクトで静の海と賢者の海の縦孔の発見の発表はしていますが、(月惑星)科学の世界では、通常、学会講演会のアブストラクトのような「レビューがはいらない」ものは、「なきがごとし」(他の論文で引用しなくてもいいことが多い)です。私は、この論文を、 Robinson博士に送りました。もちろん、なしのつぶてでした。その2012年の秋、アメリカ側も、先の論文を発表してきました。もちろん(?)、彼らは、私達の2012年の論文を全く引用していません。う~ん、、と思う反面、私が彼らに論文を送った時点で、彼らはすでに論文を投稿していて、レビュアも気づかなかった、と主張されるとそれもしょうがないです。それに、私達の2012年の論文は本に収録されてしまったので、科学論文検索で引っかからないことも多いのです。このような、本に収録されるような論文にしたのは、まずかったかな、とも思うところはあります。探査は、データが取れ始めると、一気に色々進むため、気を抜けないです。のたのたやっている間に、どんどん、考えていたアイデアの論文を出されてしまいます。非常に、厳しい時を過ごします。でもまた、これが、緊張感あって楽しいところでもあります。

      だいぶ、脱線しました。Usuiさん、是非、文化祭の成功をお祈りしております。

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