静の海の縦孔

~月最大級の縦孔~

縦孔の概要
月での最大級の縦孔は、月表側の静の海で発見されました。英語で表記すると、「Mare Tranquillitatis Hole (MTH)」となります。
孔の位置は、北緯8.3度、東経33.2度、月の平均半径1737.4kmからの高さは、マイナス0.77kmです。ウサギの頭にあたるところです。
孔の形は、ほぼ円形で、長径98m、短径89mです。深さは、107mと、100mを超える深さです。

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静の海の縦孔周辺ってどんなところ?
静の海の縦孔は、人類が初めて月に足跡を残した、アポロ11号の着陸点がある海(溶岩で埋められている地域)です。アポロ11号の着陸点から北東方向に約300km離れたところに位置します。相対的にチタンに富んだところとしても有名です。
マリウス丘の縦孔と異なり、孔は、特に溶岩が流れた痕(リル)の中にはありません。更に、孔の周りにも、リルはありません。マリウス丘の孔と同様、他には縦孔が見当たりません。ただし、数kmほど西に離れたところには、連なった凹みがあります。隕石が連なって落ちたとは考えにくく、地下に断層が生じ、その結果地下への物質の落ち込みが生じて、出来たものかもしれません。となると、静の海の縦孔も同様に、地下の断層起源のものかもしれません。

MTH02

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MTH03

 

 

 

 

 

 

 


LROによる縦孔高解像画像
静の海の縦孔も、LROによる高解像度画像が得られています。

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1)地下に巨大な地下空洞がある
静の海の縦孔もまた、マリウス丘の縦孔(MHH)と同様、画像から、縦孔の垂直壁と底の間には、縦孔の直径を超える巨大な空間、地下空洞が存在しているといえます。

2)この孔にも、ほぼ平らな底がある
更に、この孔の底もまた、MHHと同様に、平らだとわかります。孔の底には、数mに及ぶ大きな岩が点在しています。そして、その岩の多くは、砂にある程度埋もれています。大きな岩が、天井が崩れた結果、底にたまったものかどうかは、今のところよくわかりません。

3)周りに大きな岩やクレータが無い
MTHの周りにもまた、少なくとも半径100mの周りには、メートルサイズの大きな岩は、まったく見ありません。したがって、やはり、この孔もまた、中からガスが抜けた際にこの孔が出来たとは考えにくいことになります。数10mサイズのクレータも周り数100mには無く、将来の探査・基地建設にとっても、非常に格好のところに存在しています。

4)底から見える地球
MTHは、月最大級の縦孔であり、将来の基地候補として非常に優れています。加えて、孔の底の一部からは、地球が見え、地球とのダイレクト通信が出来るのでは無いかと考えられます。

 

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LROの斜め撮像
上の二枚の画像は、LROが衛星を斜めに傾けて、静の海の縦孔(MTH)を撮影したものです。左は東側から、右は西側から、撮ったもので、それぞれ、非常に詳細に、縦孔の壁、そして奥に拡がる地下空洞を捉えています。縦孔の壁には、3m~14m程度の厚さの溶岩流が層をなしていて、この地域の過去の火山活動を物語るものとして大変重要です。これら画像から、静の海の縦孔の地下空洞の天井は60mに及ぶ巨大なもので、奥行きもまた20m以上であることも、わかりました。